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かつて「ブラックゴールド」と呼ばれる石油で世界経済を支配してきた中東諸国が、いま新たな資源に目を向けています。それが「電力」です。
「AIの最大のボトルネックはチップではなく、エネルギーだ」
この言葉は、中東研究所の上級研究員モハメド・スレイマン氏が最近のインタビューで述べたものです。
AIの計算処理が複雑になるほど、必要な電力は膨大になります。
世界中でAIの導入が進み、データセンターの需要が急増する今、豊富な電力資源を持つ国が次世代の富と影響力を握ることになるでしょう。
そして中東諸国は、この新しいゲームで圧倒的なアドバンテージを持っているのです。
今回は、AI時代の「新たな石油」とも言える電力資源に注目し、中東諸国がなぜ次世代の富を握る可能性があるのか、詳しく解説します。
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「AI工場」の燃料｜なぜAIには膨大な電力が必要なのか
最近、NVIDIAのジェンセン・フアンCEOは、大規模なAIデータセンターを「AI工場」と表現しました。これは非常に的確な表現です。
通常の工場が原材料と電力を投入して製品を作るように、
AIデータセンターも電力を投入してAI計算能力という「製品」を生み出しているからです。
ではなぜ、AIには膨大な電力が必要なのでしょうか？
ChatGPTのような最新のAIモデルの学習には、驚くべき量の電力が消費されます。
GPT-4の学習に必要な電力は、一般家庭の約1万世帯が1年間に使用する電力量に相当すると推定されています。
またAI研究者によれば、AIモデルの能力が2倍になるごとに、
必要な計算リソースは約10倍に増加すると言われています。
この「指数関数的な電力需要」こそが、AI開発における真のボトルネックなのです。
最先端のNVIDIAのAIチップ「ブラックウェル」1枚は、約2500ワットの電力を消費します。
これが数千枚、数万枚と配置される大規模データセンターでは、小規模な都市全体の電力使用量に匹敵する電力が必要になるのです。
中東の決定的優位性｜安価で大量の電力供給能力
中東諸国、特にサウジアラビアとUAEが持つ最大の武器は、世界最低水準の電力コストです。
豊富な石油・天然ガス資源を持つ中東諸国では、発電コストが他の地域に比べて圧倒的に低く抑えられています。
アメリカのデータセンターの電力コストが平均して1キロワット時あたり約8〜10セントなのに対し、サウジアラビアでは1キロワット時あたり約2〜3セントと言われています。
この差は、巨大なAIデータセンターを運営する際に数十億ドル規模のコスト優位性をもたらします。
さらに、中東諸国は再生可能エネルギーへの投資も積極的に進めています。
サウジアラビアは「サウジ・グリーン・イニシアチブ」の一環として、2030年までに自国の電力の50%を再生可能エネルギーでまかなう計画を発表しています。
UAEも同様に、世界最大級の太陽光発電所「ヌール・アブダビ」を建設し、持続可能なエネルギー供給に力を入れています。
これらの取り組みにより、中東諸国は環境に優しい電力をAI開発に供給できる体制を整えつつあります。
「コンピュート・トライアングル」｜中東がAI大国になる3つの要素
中東研究所のモハメド・スレイマン氏は、AI時代の覇権を握るために必要な3つの要素「コンピュート・トライアングル」を提唱しています。
- 高性能チップへのアクセス
- 大規模データセンター
- 豊富な資金と電力
アメリカは半導体技術で優位に立ち、中国は膨大な市場と人材を持っていますが、中東諸国は3つ目の要素「豊富な資金と電力」で圧倒的な強みを持っています。
そして最近、トランプ政権によるAIチップ輸出規制の緩和により、中東諸国は高性能チップへのアクセスも確保しました。
サウジアラビアの新設AI企業「ヒューメイン社」とNVIDIAの提携により、500メガワット規模のAI基盤が構築されます。
さらにヒューメイン社は2030年までに1.9ギガワットというアメリカと中国を除けば世界最大規模のデータセンター容量を目指しています。
このように、中東諸国は「コンピュート・トライアングル」の全ての要素を急速に整えつつあるのです。
エネルギー大国からテクノロジー大国へ｜サウジアラビアの壮大な転換
サウジアラビアの「ビジョン2030」は、石油依存からの脱却を目指す大胆な国家戦略です。
この中で最も重要な位置を占めるのが、AI技術への投資です。
サウジのムハンマド皇太子は「石油の後の時代、サウジアラビアは知識とテクノロジーで繁栄する」というビジョンを掲げ、
5,000億ドル規模の未来都市「ネオム」の建設を進めています。
このネオム計画の中核に据えられているのが、最先端AIインフラの整備です。
エネルギー大国としての優位性を活かしながらテクノロジー大国へと転換を図るサウジアラビアの戦略は、単なる経済多角化を超えた野心的な取り組みと言えるでしょう。
サウジアラビアは自国のAI人材育成にも力を入れており、「サウジ・デジタル・アカデミー」を設立し、年間10万人のAI技術者を育成する計画を進めています。
同時に、年収1億円を超えるような条件で世界中からトップAI研究者を集めているという話も聞こえてきます。
「AI外交」の時代｜電力資源が生み出す新たな国際関係
かつて中東諸国は「石油外交」によって国際社会での影響力を行使してきました。
石油の供給調整によって世界経済に大きな影響を与えることができたのです。
今後は「AI外交」という新たな形の国際関係が生まれる可能性があります。
豊富な電力資源を活かしたAIインフラの提供を通じて、中東諸国は世界の技術開発の中心地としての地位を確立しようとしています。
すでにOpenAIのサム・アルトマンCEOがUAEを訪問し、同国での大規模データセンター建設について協議を行ったという報道もあります。
また、イーロン・マスクもサウジアラビアを訪問し、テスラの人型ロボット「オプティマス」の展開や、衛星インターネット「スターリンク」のサービス提供について合意に達しています。
世界のテック企業が中東諸国に殺到しているのは、彼らが持つ「電力資源」の価値を十分に理解しているからでしょう。
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「電力とAIの地政学」｜世界地図が変わる日
AI時代の新たな資源「電力」を握る中東諸国の台頭は、世界の地政学的な力関係にも大きな影響を与えると考えられます。
以下の4つの変化が特に重要です。
- エネルギー資源の再評価：石油の価値が減少する一方で、大量の電力を供給できる国の価値が高まります。中東諸国は石油収入で得た富を活用し、再生可能エネルギーへの投資を進めることで、エネルギー大国としての地位を維持しようとしています。
- データの流れが変わる：現在、世界のデータ流通はアメリカと中国を中心に行われていますが、中東に大規模データセンターが整備されることで、データの流れにも変化が生じるでしょう。中東の地理的位置は、ヨーロッパ、アジア、アフリカを結ぶデータハブとして理想的です。
- AI人材の移動：世界中のAI研究者やエンジニアが、より良い研究環境と高い報酬を求めて中東に移住する可能性があります。これは「頭脳流出の新たな形」とも言えるでしょう。
- テクノロジーと政治の新たな関係：AIインフラの提供が新たな外交カードとなり、国際関係に大きな影響を与える可能性があります。
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未来の資源地図｜電力で世界を変える中東の野望
石油の時代、中東諸国は「エネルギーを提供する国」として世界経済において特別な地位を占めてきました。
AI時代が本格化する今、彼らは再び「次世代のエネルギーを提供する国」として世界に不可欠な存在になろうとしています。
その野望は単なる夢想ではなく、すでに実行段階に入っています。
NVIDIAとの提携、ヒューメイン社の設立、再生可能エネルギーへの大規模投資—これらはすべて、中東諸国が描く未来への具体的なステップです。
「石油の世紀が終わり、AIの世紀が始まった今、かつて石油で栄えた中東が最先端技術でも世界の中心になろうとしている」
この変化は、私たちが思っている以上に速いペースで進んでいるのかもしれません。
AIに必要な電力という新たな資源を握る中東諸国が、これからどのように世界の力関係を変えていくのか。その全容が明らかになるのは、まさにこれからです。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
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